卒業式その1

ムカシムカシのおはなしよ。

今日は定時制高校の卒業式。午前中は体育館で全日制の卒業式が行われ、紅白幕などをそのままにしておいてもらって、夕方6時から始めます。5時を過ぎたころ、いつも職員室に入りびたっている4年生が、今日もやって来ました。いつもなら仕事帰りの作業服、油まみれ汗だらけでやってくるのに、今日はみんなおめかししている。そりゃそうだ、卒業式には親も来るが彼女を呼んでいるヤツもいる。カッコイイとこ見せなくちゃね。

ところが着慣れないスーツにネクタイ、襟元が何かおかしいヨシ田君にtom先生声をかけた。「ヨシ田君、このシャツはピンホールでしょ?」「なにそれ?」見ると、本来ネクタイの結び目の下になるはずのピンが、ネクタイの上に出ていて、居場所のなくなった結び目が下のほうにだらしなくぶら下がっています。「いま直してあげるよ」と、まるでお母さんがするように、tom先生はヨシ田君のネクタイを結び直してあげます。「ありがとう、先生」ヨシ田君の男っぷりも上がりました。

ところがその様子を横で見ていたヨシ山君が「でもさあ先生、俺たちいつも作業服だし、ネクタイなんかしめることないから、別に出来なくてもいいんじゃない?」と言いました。するとtom先生はこう言いました。「これから君たちの友達や仲間が結婚するだろう?その時に作業服じゃ行かないでしょ?だからその時のために練習しておかなきゃ」あーナルホド。身近に思い当たる仲間の姿でもアタマにうかんだんでしょう。その場にいたみんながウンウンとうなづきました。「さあみんな、もうすぐ食堂があくよ。最後の給食を食べにいこうぜ」

こうしてみんなは職員室をあとにするのでした。